"孤児たちのお年玉"  アルチュール・ランボー 1869年末


室内は黒々とした影におおわれ、二人の子供の悲しげなやさしいひそひそ話しがかすかに響いてくる。

その頭は、
はためき持ち上がる白く長いカーテンに隠れていまだ夢に耽って重く鈍く傾いでいる…

戸外では鳥たちが寒そうに身を寄せ合っている。

大空の灰色の色調のもとでその翼もこごえている。

〈新年〉は霧をお供に引き連れて、
雪のドレスの襞を引き摺るままに、
涙とともに微笑み、
それから鈴のように鳴りなが歌う…




さて、
幼子たちは翻るカーテンの影で、
人々が暗い夜にするように小声でお喋りしている。

子供たちは物思いに耽って、
遠いつぶやきのように耳を澄ます…

球形のガラス器の中で何度も何度も金属性のリフレインを鳴らせる朝の呼鈴の澄み切った金色の音色にも時おりびくっとして…

その上、部屋は凍りついている…

ベッドの周りの床には喪服がばらばらになって散らかっている。

戸口で嘆き哀しむ冬の厳しい北風は家の中に陰鬱な息を吹きかける!

こうしたすべてには何かが欠けているのが感じられる…

それではこの幼子たちには母親がいないのか、
涼しげな笑みをたたえた、
勝ち誇った眼差しをした母親が?

ならば彼女は忘れたのだ、
夜、
ただ一人、
許して、
と泣き叫びながら幼子たちのもとを去る前に、
身をかがめてかき集めた灰に焔をかきたてたり、
幼子たちに暖かい衣服や羽根布団をかけてあげることを。

彼女は朝方の寒さを予想して、冬の北風に対して戸口を堅く閉めておきはしなかったのか?

母親らしい夢とは、
心地よい絨毯である、
枝々に揺すられる美しい鳥たちのごとく子供たちがうずくまって白い幻影にみちた甘い眠りをむさぼる綿に覆われた巣なのである!…

だから、あそこは 

子供たちが凍え、
眠ることもできずに怯えている、
羽毛も温かさもない巣のようなところなのだ。

厳しい北風に凍ってしまっている鳥の巣だ。




あなたは納得されたでしょう。

この子たちには母親がいない。

家にはもう母親はいないのだ!

 その上、父親もとても遠いところにいる!…

一人の老いた家政婦が、それゆえ子供らを看ているのだ。

凍った家に子供たちが二人っきりでいるのである。

四歳の孤児たち、
この子たちの心の中には楽しき思い出が次第に呼び覚まされる…

さながら祈りながらつまぐる数珠玉のようだ。

ああ!
なんと幸せな朝だったことか、
あのお年玉の朝は!

どの子も夜の間にそれぞれのお年玉の夢を見た不思議な夢の中で、
たくさんのおもちゃや、
金色の衣に包まれたボンボンや、
きらめく宝石の類が、渦を巻き、
鳴り響くダンスを踊るのを、
それからカーテンの下に隠れたと思ったら、
ふたたび現れる!

朝に目覚め、
嬉々として起き上がった、
空腹を感じ、
目をこすりながら…

頭の髪は乱れもつれたままに、
子供たちは、
待ちに待った祭りの日々に臨むように目をきらきらと喜びに輝かせ、
いとけない素足はふわふわと床を飛ぶように、
両親の部屋の扉にそおっと触れに行くのだった…
とうとう入った!…
それから、おめでとうを交わしている…
シャツ一枚で、
何度も何度も接吻し合い、
それからあたう限り大はしゃぎ!




ああ!
魅力的な時であった、
何度となく言われてきたこの言葉!

けれども、
それが変わってしまったので、
かつての住まいが。

暖炉には明るい火がばちばちと勢いよく踊り、
古びた室内がすみずみまで照らされる。

炉床から漏れ出した真っ赤な光の反映はニスの塗られた家具の上で好んでくるくると回っていた…
戸棚には鍵がかかっていなかった!…

鍵がかかっていない、大戸棚には!

褐色と黒色のその扉をよくながめたものだ…

鍵がかかっていないなんて!… 

妙なことだ!…

木でできた横腹と横腹の間に眠る秘密を何度も何度も夢に見ていた、
そうして大きく口を開けた鍵穴の奥には、
遠くの物音、
漠とした陽気なささやきが聞こえるものと思っていた…

今では、両親の部屋は空っぽだ。

扉の下から漏れてくる赤い反映もきらきら光りもしないのだ。

両親もいないし、
火の気もなければ、
鍵が使われることもない。

だから、
接吻もしてもらえないし、
優しい贈り物ももらえない!

この子たちにとって、元旦はどれほど哀しいものになることだろう!

それから、
じっと物思いに耽った様子で、
大きな碧い眼より一粒の悲痛の涙を静かにしたたらせこの子らはつぶやくのだ。

「じゃあ、おかあさんはいつ帰ってくるの?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




今は、この子らは悲しげにまどろんでいる。
この子たちを見たら、
眠りながら泣いているようではないか、
瞼はあんなに腫れあがって、
息遣いも苦しげなこと!
幼な子たちの心はどれほど感じやすいことか!

けれども、
揺りかごの天使が子供たちの眼を拭いに来てくれる、
そうして、
この重き眠りの中に楽しい夢をもたらしてくれる、
実に楽しい夢であって、
半ば結んだその唇は、
微笑みながら、
何かつぶやいている様子であった…

子供らは小さな丸っこい腕に頭をもたせかけ、心地よい目覚めの仕草を夢見ている、
頭を前に突き出し、
その空ろな眼差しはあたりにぐるりと注がれ…薔薇色の天国で眠っていると思っている…
あかあかと輝く暖炉では焔が陽気に歌っている…
窓の彼方には晴れ渡った青空がのぞいている。

自然は眠りより覚め、
太陽光線は酔っている…

半ば剥き出しになっていた大地は復活を喜び、太陽の接吻をしたたかに受け歓喜に震えている…

そうして古びた家の中はどこもぽかぽかと暖かくあかあかと輝いている。

もう床には暗い色の衣服が散らばっていることもなく、
北風はとうとう戸口で静まり返る…

妖精が一人、ここをすうっと通ったみたいだ!

子供らは、
実に楽しげに、
小さな叫びを放ったのだった…

ほら、
おかあさんの寝台のそば、
薔薇色の美しい光線の下を、
ほら、
大きな絨毯の上で、
何かがきらきら輝いている…

それはきらめく反射光に浮かんだ銀色や、
黒や白の、
螺鈿や黒玉のメダイヨンだよ。

それは黒い小さな枠に囲まれ、
ガラスの花環をのせ、
「お母さまへ!」
の金色の三文字が彫られている。